平成18年4月25日

 30年前に海外住まいの日本人は40万人。現在の3分の1であった。その人たちは、子供の教育、家族の医療、社内の地位など、公私さまざまの面で鬱屈した問題を抱えていると青木利夫氏は「ロンドンからの手紙(昭和53年 朝日新聞社刊)」に記している。

続けて、「この種の不満をグチでなく、正々堂々と解決するにはどうしたらよいか。いささかとっぴに聞こえようが、自分たちの代表を日本国会に送るのが最良の方法とさえ思えてくる。・・・・不在投票の道が開かれても、それは数万票の内地票に埋没し、海外の利害や問題提起は少しも反映されないだろう。したがって運動する方も投票する方も熱意がわかず、海外票はほとんど棄権という公算が大きい。

そこで、次の総選挙から海外1区(アジア・アフリカ)、2区(米州)、3区(欧州)といった新しい選挙区が生まれ、海外経験の深い3人の代議士が永田町に乗り込むとする。彼らが忠実な選良であれば、ただ自分の子供の教育や受験のみならず、アジア軽視・米国追従の外交を批判し、日欧貿易戦争の真相を訴えるだろう。貿易立国しかない日本の国益にとって、これはかなり意味のあることに違いない。

  これを私は半ば冗談のつもりで書いている。それほど実現は難しいと思うからだ。しかし半分は本気で書いている。」

海外勤務の経験に基づく青木利夫氏の期待は今なお実現してはいない。平成12年から衆議院の比例区と参議院の比例区選挙で在外居住者の投票が認められ、昨年の最高裁判決を受けて今回の選挙法改正により在外居住者の投票は選挙区選挙にも広げられる。これにより在外投票を執行する外務省も選挙管理委員会も大掛かりな体制をしくことになるものの海外選挙区を設けるのではないから、青木氏の期待することにはならない。

昨年ヨーロッパにおける在外投票制度の調査に行ったフランスでは、第5共和国憲法24条3項に「在外居住者は、元老院に代表される。」と規定され、海外選挙区全体で12名の元老院議員の定数が地域別に定められている。もっとも選挙では在外居住者が直接に議員を選ぶのではなく在外フランス人会議の公選委員155名を選出し公選委員が元老院議員を選ぶ。なお在外フランス人会議は外務大臣を会長として外務省に置かれ、公選委員のほか外務大臣の任命する委員12名と在外フランス人枠の12名とで外務省の対外政策に関する諮問にも応じる役目を果たしている。

在外フランス人会議の公選委員による元老院議員の在外枠の選出は、青木利夫氏の考えている制度に近いであろう。今回の日本の選挙法の改正は最高裁判決を受けての改正であるから青木氏の考えていることに近づけることはできなかったが、制度のありかたの根本に立ち返って見直す必要があろう。



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