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通算20号
平成18年9月12日

刺客

 昨年の郵政民営化法案の賛否を求めたいとの小泉首相の仕掛けた選挙は一点主義の選挙方式の強さを示した。最近では平成5年の総選挙がそうだ。小選挙区制の導入に賛成が改革派、反対が守旧派に色分けされた結果、守旧派が苦戦し自民党は野党になった。このとき小泉純一郎衆議院議員は守旧派に分類され、この選挙の恐ろしさを経験したはずだ。改革は善、守旧は悪というイメージが言葉についていることがキャンペーンに利用され、その分かりやすさに引きずられることになる。フランス革命でカミーユ・デムーランが叫んだ「諸君、武器を取れ」のワンフレーズで民衆がバスティーユに押しかけたのと同じだ。

 昨年の選挙で国民を熱狂させた原因がもう1つある。それは郵政民営化法案の反対派に刺客を送ったことだ。刺客は自分の身を犠牲にして悪に立ち向かうイメージがあるから、民衆を沸き立たせることになりやすい。

 フランス革命ではジャコヴァン党の暴虐に反撃しようと立ち上がったシャルロット・コルデーが有名だ。シャルロットはジャーナリストで革命政治家であったマラーを襲い刺殺したところで取り押さえられ逮捕された。彼女が革命裁判所の法廷に引き出されるや裁判長モンターネをはじめ誰もが心を動かされたという。このときの裁判長の態度が反革命的とされて裁判長が逮捕されたくらいだし、詩人のマルチーヌはシャルロットを「暗殺の天使」と呼び賞賛していると、藤本ひとみ氏は「天使と呼ばれた悪女 ( 中公文庫 ) 」に書いている。

ただし、藤本ひとみ氏はシャルロットの暗殺行為に好意的な立場を取っていない。英雄気取りの暗殺によりジロンド党員へ探索の手が伸びたため、ジャコヴァン党の台頭で地方に逃げ再起を図りつつあったジロンド党が壊滅してしまったからだ。

 日本でも刺客は闇の中の悪を始末するものとして捉えられているようだ。かつて、テレビドラマで15年も続いた必殺仕掛け人シリーズがそれだし、池波正太郎の剣客商売シリーズの「暗殺者 ( 新潮文庫 ) 」では幕府吟味役であった松平伊勢守が剣客波川周蔵に評判のよくない田沼意次の刺殺を依頼するのが「天下のため」ということであった。藤沢周平の「暗殺の年輪 ( 文春文庫 ) 」でも家老の水尾内蔵助が葛西馨之介に中老の嶺岡兵庫の暗殺を指示するのも「兵庫は一人の商人に藩を切り売りしている策士」だから除くのだということであった。

 このように刺客は暗いイメージはあるものの悪を成敗する正義の士であり、民衆の心を代弁する者と捉えられている。これが昨年の衆議院選挙を盛り上げたようで、悲しい政治状況だ。ヨーロッパの民主主義がナチス党やファッショ党の宣伝の悲劇を繰り返さないための良識をどう育ててきたかを日本も学ぶ必要があるように思う。



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