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通算22号
平成18年12月25日

塾へ行かなくても済む学校教育

 昭和40年代の後半には小学校3年生が塾への入学願書を出すのに朝早くから親が行列をしていた。東京では「四谷大塚」、奈良では「田中塾」が有名であった。子どもが東京から奈良へ転校して初めて担任の先生が家庭訪問されたとき、子どもが塾へ行ったほうがいいとの指導を受け、「田中塾」のことはそのとき聞いた。もっとも2番目の子どもの担任の先生は、宿題を出さない、塾へも行く必要はない、授業をきちんと聞いていれば十分だと宣言していた。そこで我が家族は塾へは行かないことにした。

 しかし今は塾へ行かなくてもいいなどと言う先生はいないだろう。その結果、多くの子どもは夜遅くまで勉強に追われるのに学校の勉強の重要度は低くなる。その一方で塾へ行かない子どもは授業についていけず、子どもの間でグループ化が進んでくる。それではいけないということで「ゆとり教育」の導入となったのだろうが、上級学校への入学試験に「ゆとり教育」が反映されなければ、「ゆとり教育」がアメリカのような教育格差を作り出すことになる。

 アメリカの公立学校は即効的な実利を生むものという原則で普及した。教育に費やすお金も時間もない開拓時代の貧しい農民は教育を敵視した。それを説得して学校を作るには役に立つ教育だからという理由を強調するとともに貧しい農民が教育費を払えるように教師の報酬は安くなければならなかった。こうして誕生した公立学校は「生業」に有害無益な教育であってはならず、それを監督するために教育の専門家ではない地元民が当たるということで教育委員会が設置された。小林由美著「超・格差社会 アメリカの真実」はこうした公立学校設立の事情を紹介しており、これが今日のアメリカにおける教育格差の背景となっているようだ。

 「ゆとり教育」はアメリカにみる教育格差を日本でも生み出した。この格差を生み出すお手伝いをしたのが「塾」であり、しかも「塾」が学級崩壊、学校崩壊をも生み出した。「ゆとり教育」は学力低下のみならず「いじめ」の背景とも考えなければならない。ところが、政府の教育再生会議が12月21日に公表した中間報告には「塾」が取り上げられていない。現在の学校教育の惨状に立ち入って議論しなければ教育を再生することはできないのに全く無益な会議ではないか。

 平成18年5月に他界された奈良市の元佐保小学校校長の辻 貞三先生は「塾」の廃止を訴えておられた。残念ながらその訴えが生前に活かされる機会はなかったが、教育再生会議ではノーベル賞受賞の野依良治先生が熱心に「塾」の廃止を主張されたと聞く。ところが中間報告では触れられていない。教育の現場に携わってこられた教育者の声を活かす機会であったのに残念な結末であった。



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